刑事コロンボとチリ・コン・カン
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チリ・コン・カン |
アメリカで言うチリとはテキサス生まれの料理「チリ・コン・カン」の略称である。
テキサス州がメキシコ領とアメリカ領の間をフラフラしていた19世紀中頃に生まれたこの料理の名前は、そのため英語とスペイン語のごちゃ混ぜで、ともかくその意味は「牛挽き肉の唐辛子炒め」。
ロス市警で働く刑事コロンボがいつも街の食堂で頼むのがこの料理だ。
この料理は様々なスパイスを隠し味として使うことで美味しさが増すのだが、それを手軽にまとめたパウダーが1890年にテキサス州フォートワースで発売された「チリトマリン」という商品。
このパウダーが大ヒットした米国西海岸では、このパウダー無しではチリ料理は作れないと言われるほど。 ま、おたふくソースとお好み焼きみたいな関係なのである。
チリ料理の首都「シンシナティ」
ところが全米で一平方キロ当たりのチリパーラー(チリ料理の専門店をこう呼ぶ)最多の街はテキサスでも西海岸でもない、そうオハイオ州シンシナティなのだ。
なにしろ街中どこにでもチリパーラーがあって、路地を曲がるたびにお好み焼き屋が見つかる大阪やラーメン屋がある博多みたいな街なのだ。
もっとも我らがシンシナティチリはこれまで紹介したチリとは肉と唐辛子とクミン(スパイスの一種)を使う点を除いて全く異なる料理なのである。
1922年にシンシナティにやって来たマケドニア移民のクラドジス兄弟が エンプレス というホッドドック&ギリシャ料理の屋台をオープンした。
ドイツ系移民がほとんどのこのシンシナティで商売が行き詰まった彼らは、シナモンやグローブが効いたギリシャ風シチューにひき肉と唐辛子を加え、これをスパゲッティにかけて売り出したのだ。
これこそがシンシナティ・チリの原型となるもので、「エンプレス・チリ」がシンシナティ・チリの一号店となるのである。
やがて1949年にギリシアからやって来たニコラス・ランブリニデスが「スカイライン・チリ」を、1965年にはダオウド兄弟が「ゴールドスター・チリ」をオープンさせる。
スカイラインは現在130店舗を持つ最大チェーン、ゴールドスター・チリが100店舗でこれに続く。
しかしこれら大手チェーンに負けずにがんばっているのがインディ系チリパーラーだ。「キャンプ・ワシントンチリ」や「ブルーアッシュチリ」などのお店はしっかりと固定客をつかんだ名店揃いである。
どう食べる?
シンシナティ・チリを初めて注文する時に少々戸惑うのは Way という頼み方だろう。 これはシンシナティ・チリにのせるトッピングの方法で、
- 2-Way: チリとスパゲッティ 伝統的な組合せ
- 3-Way: 2-Way+アメリカ人の大好物チェダーチーズ。基本はこれっ!
- 4-Way: 3-Way+生のオニオンチップ。サッパリして大人の味に
- 5-Way: 4-Way+やわらかく煮た豆。これでボリュームもたっぷり
この他にもソーセージを挟んだパンにチリをかけるコニーアイランドも美味しい。
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シンシナティ・チリの定番 3-WAY |
このシンシナティ・チリは好きな人は大好きだけど、地元の人以外にはあまり人気がない。 他の街からきたアメリカ人でも嫌いな人が多いのだが、一度ハマルと毎週のように食べたくなる不思議な味だ。
シンシナティで地元の人と飲みに行くと、最後はこのシンシナティ・チリで締めるのがお約束。 シンシナティ大学近辺のチリパーラーで深夜1時頃にお客さんが外に溢れているはおそらくそのためだ。
ただしかなりガスがたまる料理なので、午後から大事な会議を控えたビジネスマンやお姑さんが日本から来ている駐在奥様のランチにはちょっとお薦めできない。
いくら歯を磨いても「あ、お前、お昼チリ食っただろ!」ってばれるんだよな。 まるで焼きそばUFOか正露丸の如し
最終訪問日 2003年9月28日